Sound Intensity

音響インテンシティ:理論と測定

音響測定と音響理論は、常に隣り合わせで進んできたわけではありません。現代の音響学の基礎を築いたのは、レイリー卿の名著「The Theory of Sound」の出版でした。この理論の基礎となるのが、音響インテンシティという物理量です。しかし、十分実用的な音響インテンシティの測定方法が登場するまでには、それから実に100年もの歳月が必要でした。

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音響インテンシティ
ブリュエル・ケアー

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私たちが音として感じる空気圧の変化は、サウンドレベルメータを使って簡単に測定することができます。この音圧レベルの測定は、測定点における音のレベルを正確に把握することができますが、その音の発生源についての質問に答えるには必ずしも十分ではありません。

音響インテンシティの測定は、音のエネルギーの流れを時間平均したベクトル量として測定できる、より強力な技術です。音響インテンシティのこれらの特性により、音源を分離したり、室内の直接音と残響音を区別したりすることができます。

 

音圧と音響パワー

音源は音響パワーを放射し、その結果として音圧が発生します。音響パワーは原因、そして音圧は結果です。次のような例えがあります。電気ヒーターが部屋に熱を放射すると、室温つまり温度はその影響を受けます。温度は、私たちが暑さや寒さを感じる物理量です。部屋の温度は、当然ながら部屋自体の形状や断熱材、他の熱源があるかどうかなどに左右されます。しかし同じ電力を入力した場合、ヒーターが放射するパワーは同じで、実質的に環境には左右されません。音響パワーと音圧の関係も同様です。我々が聞いているのは音圧ですが、それは音源から放射される音響パワーによって引き起こされます。 

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学習内容 

  1. 音圧と音響パワー
  2. 音響インテンシティとは
  3. なぜ音響インテンシティを測定するのか?
  4. 音場
  5. 圧力と粒子の速度

我々が聞いたり、マイクロホンで測定したりする音圧は、音源からの距離と、音波が存在する音響環境(音場)に依存します。つまり、部屋の大きさや表面の吸音率が関係するのです。そのため、音圧の測定をしても、機械がどれだけの音を出しているかを定量的に把握することはできません。環境に左右されない音響パワーは、音源の音の大きさを表す唯一の指標となるのです。

 

音響インテンシティとは

振動している物体は、音響エネルギーを放射しています。音響パワーはエネルギーが放射される割合、言い換えると単位時間当たりのエネルギーです。音響インテンシティは、単位面積当たりのエネルギー流量です。SI単位系では、単位面積を1m2としています。したがって、音響インテンシティの単位はW/1m2となります。

Sound intensity 

エネルギーの流れは方向があるため、音響インテンシティは方向の指標にもなります。したがって、音響インテンシティは、大きさと方向性の両方を持つベクトル量です。一方、音圧は大きさだけを持つスカラー量です。通常は、音のエネルギーが流れているある単位面積に対して法線方向(90°)のインテンシティを測定します。

また、音響インテンシティは、単位面積あたりのエネルギーの流れの時間平均値であることも述べておく必要があります。場所によっては、エネルギーが行ったり来たりしていることもあります。このような場合、エネルギーの流れは時間的に平均して相殺されるので、インテンシティは測定されません。

下の図は、音源がエネルギーを放射している様子です。このエネルギーはすべて、音源を取り囲むある領域を通過すると考えられます。インテンシティは単位面積あたりのパワーなので、音源を囲む領域の空間平均ノーマルインテンシティを測定し、それに面積を乗じることで音響パワーを簡単に求めることができます。なお、インテンシティ(および音圧)は自由音場における逆二乗則に従います。

 

Sound level and intensity mapping

このことは図を見ればわかるとおりで、音源からの距離が2倍になると面積は4倍になります。しかし放射されるパワーの総量は距離に関係なく一定なので、その結果単位面積当たりのパワーであるインテンシティは距離に応じて減少することになります。

 

なぜ音響インテンシティを測定するのか?

音圧の測定値から対象物の音響パワーを求めることができますが、実用上の課題があります。音響パワーと音圧の関係は、音場に関する仮定のもと、慎重にコントロールされた条件下でのみ導き出すことができます。無響室や残響室のような特別な構造の部屋がその条件を満たします。従来、音響パワーを測定するには、これらの部屋に音源の測定対象物を設置しなければなりませんでした。

しかし音響インテンシティは、どんな音場でも測定することができます。音場に関する仮定は必要ありません。すべての測定を現場で直接行うことができます。また、個々の機械やコンポーネントの測定において、他のすべての機械が騒音を放射している場合であっても測定することができます。なぜなら、定常的な背景騒音は、音響インテンシティから導き出される音響パワーには寄与しないからです。

Why measure sound intensity

音響インテンシティは、大きさだけでなく方向も示すことができるため、音源の位置を特定するのにも非常に有効です。そのため、複雑な振動をする機械の放射パターンなどをその場で調査することもできます。

 

音場

音場は音が存在する領域のことで、音波の伝わり方や環境により分類されます。ここでは、いくつかの例を挙げて音圧と音響インテンシティの関係を説明します。この関係が正確にわかるのは、下記のうち最初に述べる2つの特殊なケースだけです。

自由音場

自由音場では、反射物などがない理想的な空間における音の伝搬をします。この条件は、屋外(地面から十分に離れた場所)や、壁に当たった音がすべて吸収される無響室で成立します。自由音場伝搬では、音源からの距離が2倍になると、音圧レベルと音響インテンシティレベル(伝搬方向)が6dBずつ低下します。これは単純に、逆二乗の法則であると言えます。また、音圧と音響インテンシティ(大きさのみ)の関係もわかっています。これは、ISO 3744、3745、3746に記載されている、音響パワーを算出するための方法の一つです。

Free field 

拡散音場

拡散音場では、音の反射によりすべての方向に同じ大きさと確率で伝搬します。残響室で近似されています。平均インテンシティはゼロですが、室内の音圧とある一方向からのインテンシティ(Ix)を理論的に関連付けられます。一方向からのインテンシティだけであり、正反対の方向の成分は考えないものとします。一方向からのインテンシティは音響インテンシティ分析器では測定できませんが、それでも有用な量ではあります。音圧を測定することで、音圧と一方向からのインテンシティの関係を利用して音響パワーを求めることができます。これについては、ISO 3741、3743、3747に記載されています。

Diffuse field 

アクティブ音場とリアクティブ音場

音の伝搬にはエネルギーの流れがありますが、伝搬していなくても音圧はあります。アクティブ音場とは、エネルギーの流れがある音場です。一方理想的なリアクティブ音場では、エネルギーの流れはありません。ある瞬間でエネルギーは外に向かって移動しても、次の瞬間には必ず戻ってきます。エネルギーはあたかもバネのように蓄えられているため、正味のインテンシティはゼロとなります。一般的に、音場にはアクティブとリアクティブの両方が存在します。このような場においては、音圧法音響パワー測定は明確に定義されておらず、リアクティブ部もパワーの放射と無関係であるため、信頼性に欠けることがあります。しかし、音響インテンシティを測定することは可能です。音響インテンシティはエネルギーの流れなので、リアクティブ音場においては寄与しません。リアクティブ音場の例を2つ挙げましょう。

管の中の定在波

管の片端で、ピストンが空気を加振している状態を考えてみましょう。もう一方の端は、音波を反射させるように終端されています。前方に進む波と反射で返ってくる波が重なり合うことで、音圧の最大振幅と最小振幅のパターンが管内にわたって一定間隔で発生します。終端が完全な反射材であれば、すべてのエネルギーが反射され、正味の音響インテンシティはゼロとなります。そうでなく吸音する素材の場合は、ある程度のインテンシティが測定されます。低周波であれば、室内にも定在波が存在することもあります。

Spring power

音源の近傍(近接音場)

音源のごく近くでは、空気が質量のあるバネのように動き、エネルギーを蓄えます。エネルギーが伝播せずに循環しているこの領域は、近接音場と呼ばれます。ここでは、音響パワーを決定するための音響インテンシティの測定しかできません。また、音源に近づくことができるので、S/N比が向上します。

 

音圧と粒子速度の関係

ある空気の粒子が静止位置から移動すると、一時的に圧力が上昇します。この圧力上昇により、粒子を元の位置に戻す働きと、次の粒子に移動を伝搬する働きの2つが発生します。圧力の上昇(密)と減少(疎)のサイクルは、音波として媒質を伝播します。この一連の現象には、音圧(静圧に対して局所的に増減)と、ある位置を中心に振動する空気の粒子の速度という2つの重要なパラメータがあります。音響インテンシティは、粒子速度と音圧の積です。そして、以下の変換からわかるように、それは先に述べた単位面積当たりのパワーの定義と同等です。Particle velocity formula

アクティブ音場では、音圧と粒子速度が同時に変化します。音圧信号の最大振幅は、粒子速度信号の最大振幅と同時です。したがって、これらの信号は同位相であると言え、2つの信号の積より音響インテンシティが得られます。リアクティブ音場では、音圧と粒子速度は90°位相がずれています。一方の信号は他方の信号に対して1/4波長ずれています。この2つの信号を掛け合わせると、ゼロを中心に正弦波状に変化する瞬間的なインテンシティ信号が得られます。したがって、時間平均するとゼロとなります。拡散音場では、音圧と粒子速度の位相がランダムに変化するため、正味のインテンシティはゼロとなります。

Phase shift 

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