Sony Corporation has always been a pioneer in the design of audio equipment

賢者は皆、同じように考える

製品開発で課題に直面したとき、その課題に挑んでいるのは自分だけではないと思って間違いありません。

写真 © ソニーソニー株式会社は、音響機器の設計において常に先駆者であり続け、最近の開発の方向性はハイレゾオーディオに向いています。一部のオーディオ愛好家の間では、デジタルオーディオには高音質のアナログ録音の微妙なニュアンスが欠けているとの声が以前から上がっていました。標準のCD品質のオーディオは可聴帯域全体をカバーしていることから、その差は録音に含まれる高調波の干渉による影響に起因するものと考えられています。ハイレゾオーディオの大まかな定義としては、サンプリングレートが標準CDの44.1 kHzより高いか、量子化が16ビットを超えるもの(あるいはその両方)とされています。2000年代の初め、ソニーの技術者はハイレゾオーディオの価値に気付きました。それは、音響再現の明瞭度や忠実度だけでなく、バイノーラル空間における音像定位の正確さも向上することでした。研究によれば、人間は5マイクロ秒までの時間差を感じることができます。これは、再生品質を向上させる上でも、ゲーム、音楽演奏再生、または技術開発のために仮想サウンドスケープ内に音像を定位させる上でも重要な要素となっています。

HATSの出力と暗騒音のスペクトル(瞬時値) 角田直隆氏は、1991年に大学卒業と同時にソニーに入社して以来、ヘッドホンの開発に携わってきました。。究極のヘッドホンのドライバーユニットの開発にかける彼の情熱は、ヘッドホン音響技術担当部長としての立場と相まって、2004年に超ハイエンドヘッドホン「Qualia 010」の設計に結実しました。完璧に対する意欲から、彼は製品設計の評価用ツールにも疑問の目を向けました。「当社で使用していたブリュエル・ケアーのヘッドアンドトルソシミュレータ(HATS)は、最適化しようとしていた100 kHz以上の帯域で正確な測定を行うには周波数帯域が狭く、外耳道の形状が単純すぎることに開発作業の早い段階から気付いていました。そこで2014年に、求める精度を達成するためにツールをどう改善すればよいか独自の研究を始めました。」と角田氏は振り返ります。

「他者の知識を利用し、自らの経験を加えた方が目標を早く達成できるのであれば、その方がいいに決まっています。」
角田直隆氏 ソニーV&S事業部 サウンド開発部 ヘッドホン音響技術担当部長

中庸の発見

ソニーのチームは、音に対する人間の反応の正確な測定に最も影響すると考えられるパラメーターを詳しくまとめました。角田氏は次のように続けます。「目的の帯域では、人間の頭の形状、特に耳介と外耳道が測定精度に極めて大きく影響します。中でも最大の問題は頭の形状、特に耳介に大きな個人差があることです。最善の妥協点として平均形状を見つける必要がありますが、差に幅がありすぎる場合、平均で行った測定は人口の大部分にとって無意味なものとなります。」

Qualia 010 ヘッドフォン HATSの出力と暗騒音のスペクトル瞬時値このテーマに関する公開データを検討した結果、チームは、頭および耳の形状について独自の研究を行う必要があると判断しました。最も重要なのは外耳道の形状でした。正確な幾何モデルを得るために、数人の外耳道をMRIスキャナーで測定しました。また、耳介の測定も行い、結果を平均化して平均形状を割り出しました。このデータと3Dプリンター技術を使用して、標準の4128型 HATSのイヤーシミュレータおよび耳介に代わる人間の耳のシミュレータを作成しました。


実験的再設計

ヘッドアンドトルソシミュレータ関連製品
5128 型高周波HATS

次の課題は測定システムの最適化でした。人間の聴覚に近づけるには鼓膜に近い位置で、目的の周波数帯域にわたって測定する必要があることはわかっていました。しかし、標準のブリュエル・ケアーHATSのマイクロホンは上限周波数が20 kHzに限られていることに加え、直径が1/2インチでした。そのため、140 kHzまでの測定レンジと1/8インチの直径を備えるブリュエル・ケアー4138型 マイクロホンに交換し、作成した外耳道内の鼓膜の位置に設置することにしました。

チームのメンバーである角田直隆氏、原毅氏、投野耕治氏そしてHATS
チームのメンバーである角田直隆氏、原毅氏、投野耕治氏そしてHATSこの構成でテストした結果、スープラオーラル(オンイヤー)型およびサーカムオーラル(オーバーイヤー)型ヘッドホンでは、標準のHATSに比べて高域応答が改善されたほか、低域でも良好な相関が得られましたが、インイヤー型ヘッドホンでは問題が見つかりました。「「インイヤー型ヘッドホンでは500 Hzから4 kHzの帯域の応答が著しく高いことに気付き、この設計では人間の耳のインピーダンスに正確に合わせることができていないと推測しました。インイヤー型のヘッドホン構造は他の設計に比べて音響負荷がはるかに高いため、問題が最も顕著に表れたということです。」と角田氏は説明します。


共同研究

2015年頃、角田氏は4128型の製造メーカーもおそらく自分と同じ問題を抱えているはずと考えました。そこで、彼はソニーのプロジェクトについて意見を交わし、今後の開発に関する情報を共有するためにブリュエル・ケアーに接触しました。偶然にも、ブリュエル・ケアーは以前から、新設計の音響インピーダンスの最適化に重点を置いて、人間と同じ形状の外耳道に取り組んでいました。ソニーとの共同研究契約の下、ブリュエル・ケアーのチームは開発したプロトタイプに関する情報を共有し、ソニーがインイヤー型で直面していた問題の理由について説明しました。ブリュエル・ケアーの設計は、人間の耳のインピーダンスに最もよく合う新しい高周波カプラーと1/4インチマイクロホンを特徴とするものでした。何度かの話し合いの末、ブリュエル・ケアーは新型HATSのプロトタイプを実験用としてソニーに提供することで合意しました。「他者の知識を利用し、自らの経験を加えた方が目標を早く達成できるのであれば、その方がいいに決まっています。ブリュエル・ケアーのプロトタイプをテストしたところ、インイヤー型の測定に関する問題はある程度解決されました。」(角田氏)しかし、改善点はまだあるのでしょうか。角田氏は次のように語ります。「完璧の追求は果てしない道です。測定システムに加えたい改善点はまだたくさんあります。例えば、HATSヘッドの形状は標準化された有効な形状ですが、平均的な人間の頭を代表しておらず、ヘッドバンド付きのヘッドホンをテストする際に課題があります。当社の測定によれば、顔に近づくにつれて頭の側面をわずかに細くする必要があります。これはヘッドホンを正しい位置に設置する上でも役立つはずです。まだやるべきことはまだあります。

さまざまな周波数における外耳道内部の定常状態音響パワーレベルのシミュレーションさまざまな周波数における外耳道内部の定常状態音響パワーレベルのシミュレーション


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