私のプロジェクトは、Herbert PontingとFrank Hurleyの革新的な写真に魅了されたことから始まりました。彼らは、被写体、構図、気象を組み合わせることで、非常に神秘的で異質な場所を表現したのです。特に1912年に撮影された「Blizzard」と「Leaning on the Wind」という2枚の代表的な写真を通して、氷上の生活を表現したことに興味をひきつけられました。これらの写真は、従来のドキュメンタリー写真では表現することが不可能に近いものを直感的に表現するために、シーンの演出や合成プリントなどの様々な技術を駆使して、気象の猛威と大気の影響を伝えています。この不安定な状況下で形作られる抽象的な景色の描写に刺激を受けて、極限の気象を体感として表現するために、録音技術を使ってどうやったら同等の説明ができるだろうかと考えていました。Blizzard at Cape Denison — Frank Hurley、1912年
カタバ風の音への影響
猛烈な強風と幻想的な風景のイメージをしっかりと心に刻みながら、私は南極東部のケイシー基地で3週間のフィールドワークを行い、カタバ風が基地と周辺環境に与える影響について調査しました。カタバ風とは、高台の斜面を下るにつれて強くなる低重力の風のことです。特にケイシーは標高1395mのLaw Domeの麓に位置するため、この風が強く吹いています。カタバ風の冷たい空気と海風の暖かい空気が混ざり合うと不規則な天候が出現するため、ケイシーは私のプロジェクトにとって理想的な場所なのです。
カタバ風は、構造物や自然環境における音の体験方法を形作るという点で、特に注目されています。その軌道は音を遠ざけることも、引き寄せることもできます。風の強いところでは音を覆い隠し、風のないところでは音を強調します。最も激しい場合、単にその道にあるすべてのものを消し去ります。構造物との衝突により、カタバ風は上昇と下降を繰り返す激しい音程に変わります。強烈なエオリアンハープといったところでしょう。鉄骨と断熱パネルでできた建物の中は静寂に包まれ、周囲の環境から隔離された深い感覚をもたらします。
外部では大きなストレスにさらされた表面や素材がさまざまな共鳴を起こし、その移ろいやすさを表現しています。あるとき、氷に覆われ、冷えきったポーチから録音していると、時速185kmを超える突風が吹いていると知らされました。白い深淵から聞こえてくる風速計の鋭い悲鳴が、その凄まじさを物語っています。
極限のシンフォニー
3週間にわたり、私は風によって活性化され、寒さによって形作られた音の数々を録音しました。シートメタルの上を舞う氷の粒、煽られる旗、ざわめくケーブル、風になびくもろいプラスチックシート、それに無関心な様子の建築物やインフラ設備、荒涼とした氷原を吹き抜ける風、極地の環境における温度上昇と冷却の変換効果などです。この不安定な状況を記録するために、ブリュエル・ケアーの機器を様々な組み合わせで基地内に配置しました。4本のレガシーなスタジオマイクロホンと2本の全天候マイクロホン、プリアンプ、小型ハイドロホン、4個の小型圧電型加速度ピックアップから構成されています。これにより、空気伝搬音、水中伝搬音、固体伝搬音を同時に録音し、南極基地とその周辺環境の乱流やストレスの影響を明らかにすることができました。
録音された音は、展示とパフォーマンスのための新しい作曲シリーズの基礎となり、極限の気象状況における「音の生態」を直に感じて没入できるような体験を提供するように設計されています。メルボルンを拠点に活動するSpeak Percussionのための新しいコンサート作品は、マルチチャンネルのサウンドレコーディングと、特別にデザインされた氷の楽器や送風機を含む音響機器を組み合わせたもので、現在開発中です。サウンドアートと実験的パフォーマンスという変幻自在な枠組みの中で表現される場所、音、空間の融合により、極限の自然を鮮やかに、ドラマチックに印象づけることができるでしょう。
- 録音した原音を聞く
- Speak Percussionとコラボレーションした「Polar Force」は、2018年にホバートで開催されるMONA FOMA Festivalで初演される予定となっていました。
このプロジェクトは、Maurizio Demontis、ブリュエル・ケアーのメルボルン支社、オーストラリア南極観測局、Creative Victoriaの寛大な支援により遂行されました。Philip Samartzisより感謝の意を表します。
当社ニュースレターを購読すると音とバイブレーションの世界からの最新情報を取得できます。